【ホテル集客】小さなペンギンが10万人の子どもの街を作った話。

事例

広告プランナー、集客と販売促進のコンサルタント。
株式会社スタジオ・ディライト代表取締役。
広告プランナーとして全国各地で活動。広告の企画制作プロデュース、集客・販売促進のコンサルタント業務に従事。
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※許可を得て掲載しています。
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今回は、講演を依頼される際に度々「あの話をしてください」とご要望を頂き、何度も話してきた「小さなペンギン」の話をします。

私は、集客・販売促進・広報活動には、

・想像力が大事
・相手を想うことが大事
・こちらから先に誠意や好意を見せることが大事
・結果は後から付いてくる

と、常々お話ししているのですが、この小さなペンギンの話は、そのすべてが含まれる素敵な事例です。

——では本題。

浦安市舞浜に、シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテルという大型高級リゾートホテルがあります。テーマパークのオフィシャルホテルです。

シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテル

そのホテルには、館内に体育館ほどの広さの屋内型遊戯施設や、ファミリー向けの客室がありました。

それらの施設を紹介するウェブサイトを作りたいとのご相談を頂き、まずは視察とヒアリングに伺いました。

伺ってみると、施設=ハード面の良さはもちろんでしたが、それよりも何よりも印象に残ったのは、ソフトの面。スタッフの方々のホスピタリティでした。

館内を歩いていると、スタッフの女性が立膝をついて子ども達と話しているのを見かけました。

フレンドリーではありながら子ども扱いするのではなく、 1人のゲストとして笑顔で丁寧に対応されています。

また、ロビーではチェックインカウンターに小さな階段が付いていました(当時)。

私を案内してくださる担当者さんに、あれは何ですか?とお聞きすると、

「ゲストのお子さまは、カウンターの向こう側を覗きたがるんです。向こう側がどうなっているのか、知りたいんでしょうね。それで、どうぞ覗いてくださいね、って階段を付けたんです」

と笑顔で答えられました。

エレベーターホールでもレストランでも、どのスタッフの方もみんな笑顔で、心からお客様に素敵な時間を過ごしてもらおうとしているのが分かります。

視察後の企画会議では、当時の広報部長さんに施設紹介のウェブサイトを作る目的をお伺いしたところ、

「小さなシェラトンファンを作りたいんです。シェラトンが大好きになってくれるような、小さなシェラトンファンです」

と笑顔で返答されました。

私はとても感銘を受け、数日後に企画案を提出する旨を伝えて自分の事務所に戻りました。

そして考えました。

――普通に子ども向け施設紹介のウェブサイトを作っても、それだけだとシェラトンに泊まろうかな、と考えたファミリーしか見てくれない。せっかくなら、もっとたくさんのファミリーに見てもらえるようにしたい。

それよりも、せっかくならシェラトンが、お客様とのコミュニケーションを大切にしていることや、ホスピタリティを具現化して子ども達に伝えたらどうだろう?

その上で施設紹介をしたほうが、効果的だ。

でもホスピタリティなんて、どうやって子どもに伝えよう? シェラトンの一番いいところが、どうやったら伝わる?

小さなシェラトンファンを作るには???

さんざん悩んだ末、ひとつのアイデアを思いつきました。

——小さな子どもに一番わかりやすく「ホスピタリティ」を理解してもらうには、「友情」で表現すればいいんじゃないか。

相手に優しく、相手を気遣ったり、相手のために行動したりすること。

ホテルのホスピタリティは、子ども達と等身大のキャラクターに、体現してもらったらどうだろう?

そのキャラクターが子ども達と友達になって一緒になって遊べる、ゲームやストーリーが盛りだくさんの思いっきり楽しいキッズサイトを作ったほうが絶対いい。

そこでシェラトンのファンになってもらえたら、泊まるなら「シェラトン!」となるはずだ……

これだ!

そこで私は再びホテルへ。普通の紹介サイトの企画をやめて、キッズサイトの企画をプレゼンしました。

「ご依頼の話とはちょっと(というか全然)違いますし、しかも費用も通常の紹介サイトより断然かかります。でも将来のことまで考えたら、絶対こちらがおすすめです」

会議室にズラリと並ぶ、スーツ姿のホテルマンの皆さん。大きなテーブルに備え付けの個別のモニターに映る、ポップでカラフルなイメージサンプルを前に、しーんと静まり返る会議室。

成功するか分からない前例のない試み、有名高級ホテルのブランディングに無い、ポップなキャラクター展開。しかも当初の話と違いますし。

きっとホテル内では様々な意見があったと思われますが、数日後、

「承認が下りました。キッズサイト作ります」

と連絡がありました。
こうしてキッズサイトのプロジェクトがスタートしました。

このプロジェクトで私は、企画監修と、キャラクターデザイン、イラストレーションの制作パートも担当することに。

キッズサイトのタイトルは「トレジャーズ!」。

ワクワクと冒険がいっぱいの宝島というコンセプトと、ホテルのプロジェクトチームの皆さんからの「シェラトンのキッズサイトに来てくれる子ども達みんなが宝物」という、2つの意味を込めて名付けられました。

ナビゲーター兼主人公は、小さなペンギンのペントン。

ペントン

ペントンという名前は、「キッズサイトもうすぐ始まるよ!」のお知らせと共に雑誌広告を始め、さまざまな媒体でネーミングを募集。

応募してくれた子ども達のアイデアを採用しました。アンケートに参加することでオープン前から興味を持ってもらおうという試みです。

ペントンはいつも元気で、がんばりやさん。仲間達と大はしゃぎして遊んだり、好奇心旺盛で、時に失敗して落ち込んだり。子ども達と等身大のキャラクターです。

ペントンはマスコットキャラクターではなく、明確なメッセージを持ったキャラクターです。ホテルのホスピタリティ伝達役ですから、こう見えて大役を担っているのです。

そしてペントンが活躍するフィールドとなる、キッズサイト「トレジャーズ!」が完成、サイトがスタートしました。

キッズサイト「トレジャーズ」 ©Sheraton Grande Tokyo Bay Hotel

設定は、この世界のどこかにあるという、トレジャーワールド。

ホテルの仕組みを子ども達に遊びながら理解してほしいと考え、ホテルを中心に配した世界をサイト内に展開しました。

秘密の地図を紐解くと、秘密基地やジャングル、悪者の海賊たち、謎の洞窟、お化け屋敷や、巨大なツリーハウス。

プリンセスの住むチャペル、魔女のおうち、パン屋さん、キャンディワゴン、映画館、サーカスや、雲の上のお城など、6つのテーマの島で出来たトレジャーワールド。楽しそうなことが盛りだくさんの楽しい世界。

ユーザーはサイトのホテルに滞在して、島のあちこちでペントンやその仲間達が活躍するストーリーを見たり、ペントンと一緒にゲームを楽しんだりする仕組み。

コンテンツは、ザザッとこんなイメージ↓

なかよしのカイトくんのため、幻のイチゴを手に入れたペントン
カイトくんと一緒に名探偵になって探し物をしたペントン
トレジャーワールドの仲間達にお祝いしてもらうペントン
ジャングルを探検に行くペントンとカイトくん
ホテルのイルミネーションを見に来たペントン
迷子になったスノウドラゴンの赤ちゃんと出会い、ママを探したペントン
ホテルのスタッフみんなから、ホテルマンの帽子とバッジをもらったペントン
お正月にはみんなで初詣 坊主めくりのゲームも登場
海に遊びに来たペントン。このあと事件が!?
ペントンの友達を紹介して!というリクエストで、ペントンの仲間6人が登場
好きな髪形やドレスをカスタマイズしてプリンセスになるゲーム&ストーリー
みんなで音楽会
みんなに誕生日のお祝いをしてもらって大喜びのペントン

ペントンはアクセスしたユーザーにこう言います。

「来てくれてありがとう! キミが大好きだよ。キミと一緒に遊べてうれしいよ!」

ストーリーやゲームなどのコンテンツをただ提供するだけではなく、ペントンを通じて直接、またストーリーに織り込んで間接的に、子ども達に楽しんでほしいというホテルの想いを真摯に伝えるようにしました。

また、ストーリーやゲームの背景には、実際のホテルと同じ風景が随所に出てきます。子ども達は遊んでいるうちに、ホテルの風景を覚えて、親近感を感じるようになります。

キッズサイト内に出てくる文章の漢字には、あえてフリガナはふりませんでした。子どもだけに見せておく、という環境ではなく、読み聞かせる親子の時間を楽しんでほしいという考えからです。

このキッズサイトで、毎月ペントンを主人公にした新しいコンテンツを配信。

サイト上で季節のイベントを開催したり、実際のホテルでもサイトと連動したリアルのイベントが行われる中で、ペントンは徐々に認知され始めていきました。

こんなことがあったそうです。

——1組の親子が、JR舞浜駅で未就学児のお子さんとはぐれてしまいました。

ご両親は顔面蒼白、必死の思いであちこち探しても見つからず、途方に暮れてホテルに着くと、なんとそこには探していたその男の子が。

「どうしてホテルが分かったの? 初めて来たのに!?」

と驚くご両親に、その子は得意気に答えました。

「だって、毎日ペントン見てるもん!
知ってるから、シェラトン目指して来た!」

キッズサイトの配信が継続するにつれ、ペントンの人気は徐々に高まっていきました。

「ペントンのぬいぐるみが欲しい!」という声に応えて、ペントンぬいぐるみが登場。

一番最初に登場したペントンのぬいぐるみ

レストランのビュッフェには、ペントンチョコレートが登場。ペントンの限定スイーツやメニューも登場しました。

ペントンチョコレート

また、ペントンと一緒にホテルのマナーを楽しみながら知ることができるお話絵本「ペントンのすてきなおとまり」が館内全室に設置。

客室設置の絵本「ペントンのすてきなおとまり」

ペントンのファンはどんどん増えていき、会員数はスタートから5年目にして、10万人を突破しました。

これはすごいことです。「子どもがいるファミリーで、ホテルに泊まる可能性のある」10万世帯に告知できたということです。

しかも家の中に、ちびっこシェラトン営業マンがいて、テーマパークに行くとなったら、「ペントンのシェラトンに泊まりたい!」と言ってくれるわけですから。

ペントンのファンになってくれたファミリーのリクエストに応える形で、ペントングッズがもらえる宿泊プランがスタート。

非売品ペントングッズの付いた宿泊プランを発売開始

ペントンの誕生日には、全国各地から数百通ものバースデーメッセージが郵送されたり、メールが届くようになりました。

バースデーメッセージを送っても、例えば宿泊券がもらえたりするわけではないのに、ペントンのお誕生日をお祝いしたいという気持ちだけで、子ども達は無償の友情で手紙を送ってくれたのです。

全国から寄せられた、ペントンのお誕生日を祝うメッセージの一部

中には幼い、たどたどしい字で、

「これは ぼくの たからものだけど 2まい あるから 1まい ぺんとんに あげるね」

というメッセージと、可愛い柄の折り紙が同封された手紙が。

その次の更新のストーリーでは、ペントンはその折り紙をみんなに見せて言います。

「ボクの特別な宝物を見て見て! お友達からもらったんだ!」

リアルと連動して展開されるストーリーと、実務で尽力されるホテルの方々のバックアップで、ペントンはさらに人気者になっていきました。

ユーザーの子ども達の「ペントンに会いたい」という声に応えて、ペントンはホテルマンになることを決めます。

ホテルマンになったペントン

ペントンは「おもてなし係」に任命され、ロビーで子ども達を出迎えます。ついにネットから飛び出して、リアルの世界に登場しました。

実写版ペントン

その次は「ペントンのいるトレジャーズ!に行きたい!」という要望に応えて、この話の一番最初のキッカケになった屋内遊戯施設を全面リニューアル。

トレジャーズの世界を模した「トレジャーズ!アイランド」になりました。施設内には、ペントンの部屋もお目見え。

ホテルの別館に登場した屋内遊戯施設「トレジャーズアイランド」

そしてとうとう「ペントンのところに泊まりに行きたい!」というファンの要望もあって、ホテルの1フロア全室が「トレジャーズルーム」に改装されました。

トレジャーズフロアのエレベーターホール
客室トレジャーズルーム

トレジャーズルームは、椅子もテーブルもペントン柄、時計もペントン、テレビボードには秘密の小さなドアがあったり、ペントンの壁画もあったり。ペントンがいっぱい、遊び心いっぱいの楽しいお部屋です。

2015年にキッズサイト「トレジャーズ!」はその役割を終え、十数年のヒストリーに幕を降ろしましたが、客室は今も大人気、屋内遊園地トレジャーズ!アイランドでは楽しそうな声が響いています。

そして2019年には、ペントン・アニバーサリーイヤーを迎えました。ペントンの仲間達に新しいキャラクターが加わり、また新たな展開が始まろうとしています。

初登場からずっとペントンが一貫して伝え続けたことは、

「キミが大好きだよ。キミに会えてうれしいよ」

ということ。

このペントンの言葉は、シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテルの、スタッフの皆さんのおもてなしの気持ちを、ぎゅぎゅっと凝縮したものなのです。

それを軸に徐々に輪が広がり、ペントンを取り巻く世界が広がって行きました。そしてペントンはたくさんのゲストを今も笑顔にし続けています。

ペントンの事例が成功したのは、

子ども達とペントン(=ホテル)との信頼関係が出来て、子ども達がホテルのファンになる。

その上で、子どもが喜ぶ顔を見たくて親が動く。

人が動いて、次々と新しい展開が巻き起こる。

想像力を駆使して、最初に好意を示したからこそ、子ども達のことを想い続けたからこそ、起こった流れなのです。

売り込むのではなく、お客様が望んでファンになって盛り上げ、推し進めてくれた、とても素敵なケースです。

その立ち上げからのプロセスに、企画監修、制作の役割を頂けたことを、心からうれしく思っています。

今日もペントンはホテルのロビーで、たくさんの歓声と共に、笑顔の子ども達に囲まれています。

「キミが大好きだよ」

の気持ちを体中で表現しながら。

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