自分の好みを商売で押し通すのは、大変デンジャラス。ぬるいラーメン屋さんの話。

人のフリ見て我がフリ直せ

広告プランナー、集客と販売促進のコンサルタント。
株式会社スタジオ・ディライト代表取締役。
広告プランナーとして全国各地で活動。広告の企画制作プロデュース、集客・販売促進のコンサルタント業務に従事。
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けっこう前の話になりますが。
あの時、私はどうするのがよかったのか、今も時々考えるエピソードです。

その日、私は東京行きの新幹線に名古屋駅から乗車しました。

車内はわりと混んでいて、既に座っていた50代後半の男性の、隣の席に座ることになりました。

私がキャリーバッグを持っていて、その男性が荷棚に上げるのを手伝ってくれ、お礼を言ったことから会話が始まり、名刺交換をしました。

その男性、波野さん(仮名・57)は、大阪に本社事務所があり、大阪と東京で飲食店をいくつか経営されているそう。にこやかで、よく日に焼けて、帽子がお似合いのお洒落な方でした。

私が広告プランナーで集客と販売促進のコンサルタントだと知ると、波野さんは、

「集客コンサルタントさんなら、ぜひ聞きたいことがあるんですよ」

と身を乗り出しました。

「なんでしょう?」
「ウチのグループで、1軒だけ全然流行らない店があるんですよ。ラーメン屋なんですけどね、味も悪くない、近所には競合も少ない。でも人が入らないんですよ」
「まぁ、そうなんですね」
「とりあえず、なんでもいいのでアドバイスもらえませんかね?」
「お店を見てみないことには、なんとも……」

そう答えると、波野さんはバッグの中をごそごそと探り、iPadを取り出しました。

「じゃ、これ見てくださいよ、店の外観とか載ってますから」

といって、iPadの画面を操作し始め、飲食店紹介サービスのウェブサイトを表示しました。

──いやいや、見るっていうのは訪問することで、お店の外観だけ見たって、分かるわけがな……

  あぁっ! これはダメだ……

一目瞭然、iPadに表示されたお店の外観を見ただけで、人が入らない理由、そのお店の致命的な問題が分かりました。

のれん、のぼり、看板、店の屋根に至るまでが、目の覚めるような水色なのです。

圧倒的に感覚的に、この店の出すラーメンは「ぬるい」だろうと感じさせる色の外観なのです。

「どうです? 何か分かります?」

と波野さんに言われ、私はおずおずと

「み、水色ですね」

と答えました。すると波野さんは満面の笑顔になって、

「違いますよ、エメラルドグリーンですよ。僕ね、南の島のビーチでのーんびりするのが唯一の楽しみなんですよ。透き通るような、きらめく海のね、あのブルーをこだわって表現したんです。いい感じでしょう」

私は絶句しました。

──波野さんが南の島好きなのはよく分かった。でも、お店のコンセプトとも関係ないし、このお店の色を見た人は、この店はぬるいラーメンが出てきそうと直感的に感じてしまうから、人が入らないんだ…。

かといって、波野さんは一番自信のあるところへの意見は求めていないし、でも、このままでは集客の増加は難しい……。

新幹線で隣に座ったのも、袖すり合うも他生の縁。何かアドバイスが出来たら……。

あっ!

私は思いついて言ってみました。

「波野さん、ブルーでも、もうちょっと濃いブルーにしたらどうですか? 紺とか」

──紺色なら、味にうるさいストイックな職人気質のラーメン屋、という雰囲気が出せる。それなら人気の出る可能性もあるのでは……

「アッハッハッハ」

私の思考は波野さんの笑いに遮られました。

「いや、ないわー、紺はないわー、紺は日本海でしょ」

……なんで、海ベースで考えるのよ、波野さん。

その後、内心ヤキモキする私と波野さんは当り障りのない世間話をし、そうこうしているうちに波野さんが降りる品川駅に到着してしまいました。

「今度、大阪来ることあったら、店に寄ってくださいね、ラーメンご馳走しますから」

波野さんはそう言うと笑顔で去っていきました。

しかしその後、私は大阪に行く機会に恵まれず、ずいぶん長い月日が経ってしまいました。飲食店紹介サービスのウェブサイトを検索しても、波野さんのエメラルドグリーンのラーメン屋さんは出てきません。

閉めちゃったんだなぁ……。

もっとはっきり伝えればよかったのかなぁ……でもあの様子では私の意見を取り入れたとは思えなかったし……などと、時々ふと思います。

何より自信のあるポイントが、何よりダメージを与えてしまう。

ここまで読んでくださった方は、私の目線で書いているので「そんなばかな」と思うかもしれませんが、意外と自分事になると分からなくなってしまうもの。

好みを商売に乗せた時、運よくうまくマッチすれば問題ないのですが、上記のケースのように、場合によっては何らかのマイナスのメッセージを発してしまうことがあります。

「だって好きだから」で、状況や原因に気づけないと、思わぬ痛手があるかもしれませんのでご用心。

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