日本人は着物を着ない
日本人は着物を着ない。
検索するとたくさんのグラフが出てくるが、呉服業界の総売り上げは、右肩下がりで年々減少している。
成人式、卒業式、結婚式の着物レンタルは若干伸びているものの、微々たる推移。
お茶やお花、踊りを習っていて着物を着る習慣のある人以外、成人式、結婚式のイベント以外、着物は今の日本人にとって、とても縁遠いものになってしまっている。
1枚で羽織れる浴衣だけは夏の風物詩として定着したけれど、浴衣を着る女性達が着物にどれだけスライドするかと考えてみると、ほとんど無いのではないかと思う。
クローズドな呉服屋さん
着物を入手しにくい要因のひとつに、クローズドな呉服屋さんの販売システムが敷居を高くしているということがあげられると思う。
連絡先を入手し、ひんぱんな電話攻勢、お店に行くと靴を脱いで(脱いでいるから帰るタイミングが難しい)奥の座敷に上がり、反物がクルクルいくつも広げられる。
セールの時には1人のお客さんをお店のスタッフ総出で相手をするので、1対全員だ。「買うまで退店しずらい」空気が濃厚にただよう。
慣れて好みを分かってもらっている呉服屋さんはいいけど、初心者にはハードルが高すぎる。
これでは、気軽に「着物でも見ようかしら」という気持ちにはとてもならない。
来客数が減るということは、未来の売り上げが下っていく。
着物を楽しむ女性に忍び寄るお作法夫人
それでもアンティークショップなどで着物を手に入れ、ファッションアイテムとして自分で着る若い女性もちらほらいる。
ところがここで出てくるのが、お作法夫人である。
着物を着ている人をチェックして、
「あなたの着物と帯、格がおかしいわよ」
などと注意したり、
「ここ、ホラずれてるでしょ」
などと言いながら勝手に襟元や帯を直したりする、着物の自称ご意見番さんだ。
まぁ、親切と言えば親切だが、お節介と言えばお節介。
シャネルのジャケットにデニムを履いてハイヒールと、とてもクールなコーディネートをしている女性に
「あなた、ジャケットとパンツの格がおかしいわよ」
とジャケットを脱がせにいく人はいない。ファッションは自由だからだ。
じゃ着物はファッションじゃないの?お作法の一種なの?
ルールやしきたりを尊重し過ぎて一部の人だけの愛好品にしてしまうと、さらに人は離れていく。そして誰もいなくなる。
現在は、「特別な一部の人だけのもの」のようになってしまっている着物。
ルールや作法が厳しい=着物って難しそう……と思われてしまうのも普及を阻んでいる大きな要因だと思う。
しきたりを重んじ過ぎて、一部の正装お着物の人だけがステイタスを感じる今の状態では、着物そのものが衣類の選択肢に入らず、ほんと滅びてしまう。
着物はカジュアルダウンしなきゃ
確かにビシッと決まった格式ある着物姿はとても美しく、かっこいい。だけど、いきなりそこをアピールしても、着物に縁のない人にはハードルが高すぎるし、「じゃぁ着ましょう」とはならないと思うのだ。
広告プランナーとして考えるに、まずは「着物」というより「着物を着るという文化」を浸透させなくてはいけない。そして浸透させるには「かわいい」「素敵」「クール」の要素が外せないと思う。
人は素敵だと思わなければ着たくないし、欲しくない。
素敵だと思えば、着付けがめんどうでも着る。
特別な日のお着物ではなく、ジャカジャカ着てもらえる位置まで、とりあえずカジュアルダウンする必要があると思う。
と言っても安売りすればいいということではなく、インポートブランドが廉価版のセカンドラインを売るようなイメージ。
まずはファストファッションとして楽しんでもらえるようにするのが着物復活のカギだと思う。
着物は組み合わせや色や柄で、季節感やテーマを演出したり、小物でもいろんなコーディネートが出来る、とても素敵な衣類だ。
しきたりなんかにとらわれないで、自由に着ていいのだ。着物だって、衣類のひとつに過ぎないもの。
竹久夢二の作品などを見ると、みんなルーズに、でも素敵に着物を着ている。
日本の伝統を守ろう!は響かない
着物を着よう、日本の伝統をなくさないで!なんて言っても人々にはあまり響かない。「そうだねー」と多くの人は思うけど、自分の人生や楽しみに直接関係がないから。
だから、自分に関係あると思ってもらうなら、普段着で「かわいい」「かっこい」「粋」な衣類ですよ、ということをアピールするほうが近道だと思う。正装のお着物を着よう、というのは着ない人にとってはドレスを着よう、と同じくらいの感覚だと思うので、普段着推しがいいと思う。
とりあえず、女子の皆さんは(もちろん男性も)呉服屋さんのセールや、アンティークショップやリサイクル屋さんで気に入った柄の安価な着物を手に入れて、着物というアイテムを楽しんでほしい。ニットやブーツと合わせたり、帯の代わりにスカーフまいたり、半襟に柄物の手ぬぐいをつけたりして、オリジナルなコーディネートを考えるのも楽しい。
お作法夫人や呉服業界の人は、それにめくじらを立てたりせず、暖かい目で見守るべきなのだ。
顧客ピラミッドの頂点のコアなファンを増やそうと思ったら、土台になる受け皿は広く浅く、ハードル低く作らなければいけない。
広く浅く気軽に着物に接するフィールドを用意してこそ、順次もっとちゃんと着物を着たい人が育ってゆくのだ。
ひいてはそれが反物の織りや染めの職人さん達にもかえってくる。
着物をカジュアルダウンさせて日常的に目にするライフスタイル、そこを目指すのが第一目標だと思う。
動機が「かわいい」でもいいじゃん。
正装から見たら外れててもいいじゃん。
そうして身につけてくれることが、日本の民族衣装を維持する一助なのだから。
着物に限らず、多くの日本文化コンテンツが同じような道を辿っている。
心から日本文化の衰退を憂い、なんとか復活してほしいと思う。