後発で高く売った行列スイーツ。分かりやすく価値を伝えれば、人は高くても選んでくれる、という話。

事例

広告プランナー、集客と販売促進の企画制作プロデューサー兼アートディレクター。株式会社スタジオ・ディライト代表取締役。

全国各地の有名企業から小規模事業まで、500社を超えるクライアントのプロジェクトに参画。広告や店舗の企画制作プロデュースから、ワークショップなど集客に関わる企画で幅広く活動中。
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以前、異業種交流会のようなシーンで名刺交換した後に「プランナーさんはいいね、企画するだけで自分がお金を使って商売するわけじゃないんだから」と言われたことがありました。
いつもクライアントさんに親身になって寄り添ってきたつもりの私は、心の中で憤慨したのですが、この言葉はずっと心に残っていました。
それが動機になったことと、運と縁に恵まれて、私は自分で雑貨店と和のカフェを作り、2年間運営したことがありました。

私のお店があった場所は全国的に有名な小京都、飛騨高山。観光のメインスポットで、立ち並ぶお店は観光客の方に向けてテイクアウトできる、食べ歩き用のメニューを出しているところが多くありました。

ウチのお店でも何かテイクアウトメニューを作ろうとなり、スタッフ・ミーティング。お店のコンセプトに合わせて和風なテイクアウトスイーツを、ということで、アイス最中を発売することに。

とはいえ、近隣のお店では何軒かすでにアイス最中をテイクアウトで出しています。
後発なら、それより良い内容にして高く売らないとダメだね、と方針を決めました。

普段の私は、広告プランナーとして、伝えることの重要性を説いたり、実践したりしています。

「きちんと伝われば、周囲のお店より高く売っていても、お客さんに望まれて買われていく」という私の持論を、この機会に試してみようと思いました。

近隣のお店では、350円でアイスクリームを最中に挟んで売っているところ、私達のお店では500円で販売することに決定。

当然、商品を500円に見合う内容にする必要があります。試行錯誤を重ねて(私はスイーツには並々ならぬ情熱もあり)満足の行く仕上がりに。

500円でも自信を持って出せるアイス最中が出来ました。

地産の牛乳から作られたアイスクリームと生クリーム。スライスしたバナナ、それらをぎゅうひで包み、黒蜜をかけ、パリパリ最中でサンドした、もうこれ絶対美味しい組み合わせ!という、ぜいたくな最中。

ネーミングは「ぜいたくアイス最中」としました。

ぜいたくアイス最中

冷たいテイクアウトメニューが動き始める6月。
さっそく、店頭看板に「夏季限定・ぜいたくアイス最中、500円」と掲示しました。

しかし全く売れません。だって上の情報だけじゃ、なにがぜいたくなのか、なんで高いのか、全然分からないですものね。周りのお店では350円ですし。

売れ行きは1日に1個か2個あるかないか。
メインで商品開発を担当してくれたスタッフが、しょんぼり言います。

「全然売れませんね……」
「うん、売れない見本のようなお知らせの仕方だからね」
「じゃ、売れるようになるんですか」
「うん、たぶん。その時怒らないでね」

もう、いろんな手法が思いつくのですけど、テストマーケティングなので我慢、我慢。

7月半ばまで待ち、いよいよ店頭に黒板を出しました。
それがこの内容。

【期間限定】ぜいたくアイス最中

地産の牛乳から作ったアイスクリーム、
生クリーム、バナナに黒蜜をかけて、
ぎゅうひで包み、最中に挟みました。

パリッ、もちもち、ひんやりのトリプル食感。
ボリュームもたっぷり、ぜいたくスイーツ。

【テイクアウトできます】

売り切れちゃったら、ごめんなさい💦

黒板1枚です。

でも黒板の威力ってすごいのですよ。
店構えからだけでは伝わらない、お店の生の声を店外に発信できる、非常に優秀なツールです。

黒板を見た通りすがりの人が徐々に入り始め、ぜいたくアイス最中の売れ行きは、8月に入ったところで、1日30から40個にまで跳ね上がりました。最初の数値が1日1個2個なので、実に30倍から40倍に伸びたことになります。

しかもお客さんは、価値と中身を理解した上でお買い求め頂いているので、

「ぜいたくだね〜♫」

と笑顔で頬張ってくださり、「ぜいたくアイス最中」というネーミングも、お客さんが共有してくれるのです。

値段の安い高いではなく、価値が伝わった時、人は選んでくれるのです。
お客さんがわざわざ他店より高い最中を売る店を、探してやってきてくれるのです。

クチコミから火がついたぜいたくアイス最中は、お客さんの投稿により、翌年春発売の旅行雑誌「るるぶ」に、写真入りで大きく掲載され、その反響でその年の夏はお客さんが店外まで続く大行列。
1日の販売数は200個オーバー。

お店の厨房は、澄ました店構えとは裏腹に激動のパニック状態に。

「集客の実験もほどほどにしてください!」

とスタッフから叱られました。
るるぶに載るのは計算外だったけど、怒らないでって言ったのにー。

でも私がやったのは、価値が伝わるメッセージをスタッフに伝え、黒板に書いてもらっただけなのです。

きちんと伝われば、値段が高くても並んでも、人は動いてくれるのです。

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